無痛分娩を希望しているものの、「自分の体質でも受けられるのだろうか」「どんな病院を選べばいいのか分からない」と悩んでいる妊婦さんは少なくありません。無痛分娩は陣痛の痛みを和らげながら出産できる方法ですが、実施するには医学的な条件や病院の体制など、いくつかの条件をクリアする必要があります。

この記事では、無痛分娩ができる条件とできない条件について、医学的な側面と病院の実施体制の両面から詳しく解説します。これから産院選びをする方や、無痛分娩を検討している方はぜひ参考にしてください。

無痛分娩ができない医学的な条件と体質チェック

無痛分娩は多くの妊婦さんが選択できる分娩方法ですが、母体の安全を守るために実施できないケースがあります。無痛分娩では背中に細い管を入れて硬膜外麻酔を行うため、麻酔に関連するリスクがある方は対象外となります。

脊椎疾患や血液凝固異常など硬膜外麻酔のリスク

無痛分娩で最も一般的な硬膜外麻酔は、背骨の近くにある硬膜外腔という場所に細いカテーテルを挿入し、そこから麻酔薬を注入する方法です。しかし、以下の条件に当てはまる方は、麻酔による合併症のリスクが高まるため実施が難しい場合があります。

血液凝固異常がある方は、無痛分娩を受けられない可能性が高くなります。硬膜外麻酔では針を刺す際に出血が起こりますが、血液が固まりにくい体質の場合、硬膜外血腫という合併症を引き起こすリスクがあります。硬膜外血腫が発生すると、神経を圧迫して麻痺が残る可能性があるため、無痛分娩の実施前には必ず血液検査を行い、血液の固まりやすさを確認します。

また、血液をかたまりにくくする薬を服用している方も同様のリスクがあるため、医師に必ず申告する必要があります。妊娠中は血液の状態が変化することもあるため、もともと問題がなくても分娩時の検査結果によっては無痛分娩ができなくなるケースもあります。

脊椎に疾患や変形がある方も、無痛分娩が難しい場合があります。椎間板ヘルニアや脊柱側弯症など背骨に問題がある場合、硬膜外腔にカテーテルを挿入することが技術的に困難になります。変形の程度や位置によっては実施可能な場合もあるため、事前に医師に相談することが大切です。

さらに、背中の神経が病気に侵されている方や、カテーテルを挿入する部位に感染がある方も無痛分娩の対象外となります。穿刺部位に感染があると、硬膜外膿瘍や髄膜炎を引き起こすリスクがあるため、実施できません。

高度な肥満や麻酔薬アレルギーによる制限

高度な肥満の方は、無痛分娩の実施が難しくなることがあります。体格によっては背骨の位置が触診で確認しにくく、カテーテルの挿入が技術的に困難になるためです。ただし、肥満の程度によって判断が異なるため、担当医と相談しながら決定します。

麻酔薬に対するアレルギーがある方も、無痛分娩ができない可能性があります。これまでに歯科治療や手術で局所麻酔を使用した際にアレルギー反応が出た経験がある場合は、必ず医師に伝えてください。

また、閉塞性肥大型心筋症や大動脈狭窄症などの心臓疾患がある方は、硬膜外麻酔によって血圧が急激に低下する危険性が高いため、無痛分娩を行うことができません。このような基礎疾患がある場合は、妊娠初期の段階から医師と相談し、安全な分娩方法を検討することが重要です。

なお、無痛分娩を希望する場合は、妊娠28~30週頃までに医師にその旨を伝え、事前の麻酔科受診や説明会への参加など、必要な準備を進めておくことをおすすめします。

病院の体制で変わる無痛分娩の実施条件

無痛分娩ができるかどうかは、妊婦さんの体質だけでなく、医療機関の体制によっても大きく左右されます。日本では無痛分娩の実施体制が病院ごとに異なるため、産院選びの段階でしっかりと確認しておくことが大切です。

計画無痛分娩と自然陣痛発来の対応の違い

無痛分娩には大きく分けて計画無痛分娩自然無痛分娩の2つの方法があります。

計画無痛分娩とは、あらかじめ出産日を決めて、その日に入院して陣痛促進剤を使用しながら無痛分娩を行う方法です。前日または当日の朝に入院し、必要に応じてバルーンで子宮口を広げる処置を行った後、陣痛促進剤で人工的に陣痛を起こします。この方法では、麻酔科医の勤務時間内に分娩を開始できるため、確実に無痛分娩を受けられるというメリットがあります。

また、出産日が事前に分かるため、パートナーの立ち会いや上の子どもの預け先の調整がしやすく、計画的に出産準備ができます。ただし、陣痛促進剤を使用するため、通常の分娩費用に加えて費用が高くなる傾向があります。医療機関によっては、無痛分娩費用と合わせて20万円前後の追加費用がかかることもあります。

一方、自然無痛分娩は、自然に陣痛が来るのを待ち、陣痛が始まってから無痛分娩を開始する方法です。自然な陣痛発来を待つため、赤ちゃん主導の出産ができるというメリットがありますが、陣痛がいつ始まるか予測できないため、病院の受け入れ体制によっては無痛分娩ができないケースもあります。

多くの医療機関では、安全に無痛分娩を実施できる体制を整えるため、計画無痛分娩を採用しています。これは、麻酔科医の確保や設備面での制約があるためです。ただし、24時間体制で無痛分娩に対応できる施設では、自然陣痛発来後でも無痛分娩を受けられることがあります。

夜間休日の麻酔科医不在と24時間対応の有無

無痛分娩の実施において最も重要な条件の一つが、麻酔科医の配置体制です。硬膜外麻酔は高度な技術を要するため、麻酔に精通した医師が対応することが望ましいとされています。

多くの医療機関では、麻酔科医が24時間常駐しているわけではなく、平日の日中のみ対応可能という施設が少なくありません。そのため、夜間や休日に陣痛が来た場合、無痛分娩を希望していても実施できないことがあります。このような施設では、確実に無痛分娩を受けるために計画無痛分娩を選択する必要があります。

ただし、24時間365日体制で無痛分娩に対応している医療機関も増えてきています。このような施設では、麻酔科医が常駐しているか、オンコール体制で迅速に対応できる仕組みが整っているため、夜間や休日に陣痛が来ても無痛分娩を受けられる可能性が高くなります。

病院を選ぶ際は、以下の点を確認することをおすすめします。

  • 麻酔科医が常駐しているか、オンコール体制があるか
  • 24時間無痛分娩に対応しているか
  • 計画無痛分娩のみの対応か、自然陣痛発来後も対応可能か
  • 夜間・休日に陣痛が来た場合の対応はどうなるか

また、計画無痛分娩を予定していても、予定日より早く陣痛が来たり破水したりすることがあります。そのような場合の対応についても、事前に医師と相談しておくことが大切です。施設によっては、分娩室の満室状態や人員配置の都合で、希望通りに無痛分娩ができないこともあるため、柔軟な対応を心がけましょう。

麻酔開始のタイミングと分娩進行中の条件

無痛分娩では、麻酔を開始する適切なタイミングが重要です。また、分娩の進行状況によっては、医療介入が必要になるケースもあります。

麻酔を入れる子宮口の開きと陣痛間隔の目安

硬膜外麻酔を開始するタイミングは、一般的に子宮口が3~5cm程度開いた頃とされています。また、陣痛が5~10分間隔で規則的に来ている状態が目安となります。

子宮口が十分に開いていない段階で麻酔を開始すると、分娩の進行が遅れるのではないかという懸念が以前はありましたが、最近の研究では、早めに無痛分娩を開始しても分娩時間には影響がないことが分かっています。そのため、痛みを感じ始めた早い段階でも麻酔を開始できる施設が増えています。

ただし、麻酔のタイミングは医療機関の方針や分娩の進行状況によって異なります。産婦さん本人の希望と医師の判断を総合的に考慮して決定されます。痛みをギリギリまで我慢してしまうと、痛みで正しい姿勢が取れず、カテーテルの挿入が難しくなることがあります。また、麻酔が効き始める前に赤ちゃんが生まれてしまう可能性もあるため、早めに医師に相談することが大切です。

麻酔開始後は、ベッド上で安静にして過ごします。麻酔薬は30分から1時間半程度効果が持続しますが、その後は痛みが戻ってくるため、追加で麻酔薬を注入します。最近では、一定時間ごとに自動的に麻酔薬が注入されるプログラム制御の方法を採用している施設も多くなっています。

なお、無痛分娩では完全に痛みがなくなるわけではありません。分娩をスムーズに進めるため、いきむ力を保てる程度の低濃度の麻酔薬を使用します。そのため、生理痛程度の軽い痛みは残ることが一般的です。赤ちゃんの下降感や子宮の収縮をある程度感じながら、タイミングを合わせていきむことが必要になります。

緊急帝王切開や吸引分娩へ切り替える状況

無痛分娩を予定していても、分娩中に母体や赤ちゃんの状態が変化した場合、帝王切開や吸引分娩に切り替える必要が生じることがあります。

帝王切開への切り替えが必要になる主なケースは以下の通りです。

胎児機能不全では、赤ちゃんの心拍数に異常が見られ、酸素が十分に届いていない状態になります。臍帯が圧迫されたり、胎盤機能が低下したりすることで起こります。緊急度が高い場合は、速やかに帝王切開を行う必要があります。

回旋異常は、赤ちゃんが上手く身体の向きを変えられず、分娩が進まなくなる状態です。赤ちゃんが産道をスムーズに通過できないため、経腟分娩が難しいと判断されると帝王切開になります。

常位胎盤早期剥離臍帯脱出など、母子ともに緊急性の高い状況が発生した場合も、速やかに帝王切開が選択されます。

なお、無痛分娩だからといって帝王切開になる確率が高くなるわけではありません。日本産婦人科医会の調査によると、無痛分娩の有無によって帝王切開率に違いはないことが報告されています。

また、吸引分娩や鉗子分娩は、分娩が長引いたり、赤ちゃんを早く出してあげる必要があるときに行われる医療介入です。無痛分娩では、麻酔の影響でいきむ感覚が分かりにくくなることがあり、吸引分娩が必要になる割合が自然分娩よりもやや高くなる傾向があります。

無痛分娩で帝王切開が必要になった場合、すでに硬膜外カテーテルが入っているため、そこから強い麻酔薬を追加することで速やかに手術に移行できるというメリットがあります。自然分娩から帝王切開に移行する場合と比べて、麻酔を一から行う時間を短縮できるため、緊急時の対応がスムーズになります。

まとめ

無痛分娩を実施するには、血液凝固異常や脊椎疾患などの医学的な条件をクリアする必要があります。また、病院の麻酔科医の配置体制によって、計画無痛分娩のみの対応か24時間対応かが決まります。麻酔開始は子宮口3~5cm開大が目安ですが、分娩進行中に帝王切開や吸引分娩への切り替えが必要になることもあります。希望する方は早めに医療機関に相談し、自分に合った出産方法を選択しましょう。